白いそばと黒いそば
そばのところで述べていますが、少し詳しくみていきたいと思います。
そばには、真っ白なさらしなそばから、黒っぽいそばまで、様々な色のものがあります。色だけでなく香りや味も異なりますが、それぞれのそばに使用しているそば粉の成分組成の違いであり、当然、栄養成分にも違いがあります。
玄ソバ(殻のついたままのソバの実)は、外側から中心に向かって殻(果皮)、甘皮(種皮)、胚乳、胚芽(子葉部)という順序で構成されており、各部の成分組成は大きく異なっています。
例えば、そばの風味や麺のつながりに関係するたんぱく質は、甘皮には約45%、、胚芽にも35%近く含まれていますが、炭水化物が主体の胚乳には4%程度しかありません。また、そばの色に影響する灰分は、甘皮には約7%、胚芽には5%ほど含まれていますが、胚乳では1%もありません。
そば店などで「抜き」と呼ばれているのは、玄ソバから殻を取り除いたソバの実のことで、その際に割れてしまったソバの実は「割れ」といいます。そば製粉では、この抜きと割れを段階的に挽きながらふるい分け、何種類かのそば粉にしていきます。その時、殻を引いた各部分の、どの部分がどれくらい含まれるかで、そば粉の色や風味、そして栄養成分が決まることになります。
そば製粉は、抜き、あるいは割れの柔らかい部分から順に挽き砕き、粉にしていきます。現在の製粉工場では、段階的な挽砕(ばんさい)と網目の異なる篩(ふるい)の組み合わせによって、成分組成の異なるそば粉を取り分けるロール製粉が主流で、取り分ける順に、一番粉(内層粉)、二番粉(中層粉)、三番粉(表層粉)と呼んでいます。
一番粉は、抜き(割れ)を軽く粗挽きした段階で篩によって選別された粉で、粉状質で柔らかい胚乳の中心部が主体の粉です。栄養成分は炭水化物(ほとんどが「でんぷん」)が77.5%を占め、たんぱく質は6.1%、灰分は0.8%しか含みません。色が白く、いかにもそばといった風味はありませんが、特有のほのかな甘味のあるそばになります。この一番粉とさらしな粉が混同されることも多いのですが、厳密な意味でのさらしな粉は製粉方法が違い、さらに高純度のでんぷん粉になります。
一番粉を取ってからさらに挽砕を続けると、一番粉にならなかった胚乳や胚芽が砕けてきます。これを取り出した粉が二番粉で、そばらしい香りと風味に優れ、色は淡い緑黄色を帯びています。たんぱく質は10.3%、炭水化物は71.9%、灰分は1.6%です。三番粉は、二番粉を取り分けた残りの部分から挽き出される粉で、甘皮の一部も一緒に挽き出されてくるため色も濃いです。たんぱく質は15.1%、灰分は2.4%といずれも最も高いですが、その分、炭水化物は65.9%と少ないです。そば本来の香りは一番強く、栄養価も高いですが、繊維質が多く味や食感は劣るといわれています。
通常、そば製粉はこの三番粉までですが、さらに四番粉(末粉(すそこ)―「さなご」ともいう)まで取る場合もあります。四番粉は甘皮や胚芽が主体の粉で、主として乾麺や生麺用として利用されています。なお、一般のそば店では、二番粉と三番粉を混合した「並み粉(標準粉)」が使用されており、その混合割合によって細かく区分されています。
以上は段階的に取り分けるそば粉ですが、取り分けをしないでそのまま三番粉まで挽き込んだそば粉を「挽きぐるみ(全層粉)」といいます。昔は皮をむかずに玄ソバのまま石臼などで挽き、それから篩にかけて殻を取り除いていました。しかし、このやり方では殻を完全に除去できないため、黒っぽくボソボソした食感のそばになってしまいます。そのため、現在「挽きぐるみ粉」と呼んでいる粉は、殻を完全に取り除いてから製粉しています。それでも、甘皮まで一緒に挽き込んでいるため、色は黒っぽくなります。
「挽きぐるみ」は、たんぱく質12.1%、炭水化物69.5%、灰分1.8%が標準とされていますが、どの程度の歩留まりの粉にするかで品質、成分に大きな違いが出てきます。歩留まりとは、ソバの実の何%まで粉に挽くかという意味で、歩留まり率を高くすれば、粉になりにくい甘皮部分を多く挽き込むことになります。ちなみに、最近流行の石臼製粉の場合は、大半が粉の取り分けをしない「挽きぐるみ」です。